GLP-1で落ちた体重、その内訳に筋肉はどれくらい含まれるのか
ウゴービを半年続けて 8kg 落ちた。数字だけ聞くと、全部が脂肪のように感じます。
でも体組成計に乗ると、そう単純な話じゃないんですよね。
NEJMに載ったSTEP 1では、セマグルチド (semaglutide) で 68週 後に −14.9% 減った参加者のうち、除脂肪量の目減りが全減量の 約40% を占めていました。
8kg 落ちたうち、3kg 前後は筋肉や水分も含む除脂肪量ということです。
2026年のGLP-1治療で、ここがいちばん語られないまま残っている部分です。
数字の出どころを2つの臨床試験で確認する
GLP-1の筋肉データは、3つの大規模試験を見ておけば話が早いです。
NEJM 2021のSTEP 1、NEJM 2022のSURMOUNT-1、そして追跡 104週 のSTEP 5。
STEP 1は参加者 1961人、セマグルチド 2.4mg を 68週 投与。平均減量は −14.9%。
DXAサブ研究の内訳は、脂肪量 −19.3%、除脂肪量 −10.4%。
全減量に占める除脂肪量の比率は 約40%。Harvard Science Reviewも2026年2月の「The GLP-1 Aftermath」でこの数字を引いています。
SURMOUNT-1はチルゼパチド (tirzepatide) 15mg を 72週、参加者 2539人 で評価。
平均減量は −20.9% と一段大きい。
ポイントは、脂肪量と除脂肪量がDXA上でおよそ 3:1 の比率で減ったところです。
除脂肪量の損失は全体の 約25% にとどまり、セマグルチドより筋肉の残り幅が広い、という読み方になります。
NEJM 2021 (Wilding et al.) 補足解析より:「体重減少のうち除脂肪量が占める割合は、運動指導の有無で大きく変動した。加齢性サルコペニアの観点でも示唆的である」
長期データのSTEP 5は 104週 で −15.2%。減量そのものは維持できていました。
ただし筋トレを併行しなかった群では、筋肉量の目減りが止まらない。
2年 経つと、運動を入れた群と入れない群で、筋力にそこそこの差が出てきます。
もうひとつ前提として、除脂肪量には筋肉だけでなく、水分、骨、内臓も含まれます。
DXAの数値をそのまま「筋肉が 10% 減った」と読むと、実態より悲観的になりがちです。
急な減量の初期は水分の動きが大きく、その後のフェーズで骨格筋の実質的な低下が乗ってくる。
3カ月の数字だけで判断せず、6カ月 以上のトレンドで見るのがいいです。
試験別に並べると、薬ごとの色が見えてくる
一覧にして比べます。
| 試験 | 分子 | 期間 | 平均減量 | 除脂肪量損失の比率 |
|---|---|---|---|---|
| STEP 1 | semaglutide 2.4mg | 68週 | −14.9% | 約40% |
| STEP 5 | semaglutide 2.4mg | 104週 | −15.2% | 30–40% |
| SURMOUNT-1 | tirzepatide 15mg | 72週 | −20.9% | 約25% |
| Retatrutide P2 | retatrutide | 48週 | −24.2% | 20–25% |
| REDEFINE-1 | CagriSema | 68週 | −22.7% | 35–40% |
retatrutideとCagriSemaは研究段階の数字で、日本ではどちらも未承認です。 目を引くのは、「いちばん体重が落ちる薬 = いちばん筋肉が残る薬」ではないという点。 CagriSemaは減量幅が大きいのに、筋肉が残る比率はSTEP 1とほとんど変わりません。
薬を選ぶときは、減量の総量と、そのうち何割が脂肪かを、別の軸で見たほうがいいです。
除脂肪量の減り方には時間差もあります。
導入初期の 4–8週 は水分とグリコーゲンが主に動くフェーズで、体重の下がり方が派手に見える時期。
そこから脂肪と骨格筋の減少が本格化して、6カ月 を過ぎるあたりから筋肉の比率がじわっと増えるパターンが多い。
「初月で 3kg 落ちたから、半年後は 18kg 減」という計算は、だいたい外れます。
実際は緩やかに逓減するカーブで、筋肉の消耗がどこで追いついてくるかに個人差が出ます。
セマグルチドとチルゼパチドの差を、体感に落とすと
ざっくり整理するとこうです。
- セマグルチド系:落ちた体重の 約60%が脂肪、約40%が除脂肪量。
- チルゼパチド系:落ちた体重の 約75%が脂肪、約25%が除脂肪量(およそ
3:1)。
数字の差は小さく見えます。ただ、半年・一年と積み重ねたときの体感は、見た目より違う。
80kg の人が 15% 落ちた場合、減量は 12kg。
セマグルチドで約 4.8kg、チルゼパチドで約 3kg が除脂肪量にあたります。
差は 1.8kg。これが握力や階段の上りやすさに効いてきます。
ひとつだけ注意。これは薬の優劣の話ではなく、同じ 15% を落としたときの内訳の違いです。
チルゼパチドは減量幅そのものが大きい薬なので、絶対量で見ると除脂肪量の損失も小さくはありません。
日本で買える薬を整理する
2026年4月時点の日本での位置づけです。
| 商品名 | 一般名 | 日本での承認 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| ウゴービ | semaglutide 2.4mg | 2023年承認 | 肥満症 |
| オゼンピック | semaglutide | 承認済 | 2型糖尿病 |
| リベルサス | semaglutide 経口 | 承認済 | 2型糖尿病 |
| マンジャロ | tirzepatide | 承認済 | 2型糖尿病 |
| サクセンダ | liraglutide 3.0mg | 国内未承認 | 個人輸入扱い |
ウゴービは保険適用のハードルが高いです。
BMI 35 以上、または BMI 27 以上で高血圧・脂質異常症・2型糖尿病などの合併症が 2つ 以上。
加えて食事・運動療法を 6カ月 続けた履歴が前提。
自由診療だと月 4–8万円 の幅で、クリニックによって価格差が大きいです。
マンジャロは2026年4月時点で、肥満症の適応はまだ取れていません。
糖尿病の保険診療で処方するか、ダイエット目的なら自由診療で月 6–10万円 前後。
サクセンダは国内未承認です。個人輸入ルートには偽造品と健康被害のリスクがあり、PMDAも繰り返し注意喚起を出しています。
日本独自の事情として、ウゴービを保険で出してくれる施設はまだ限られます。
日本肥満学会の認定施設、あるいは肥満症治療の経験がある内分泌・代謝内科が中心。
処方を続けるには 3カ月 ごとに体重・血圧・採血で合併症をチェックするのが前提です。
「美容クリニックで楽に始めたい」気持ちと、「長期の合併症管理が要る」という医療側の考え方は、実は方向性がずれています。
そこを理解したうえで、長く通える施設を最初から選んだほうが、あとで楽になります。
筋肉を落としやすいのは、こういう人
データから見える、ハイリスクのプロフィールです。
65歳以上で、もともとサルコペニア傾向のある人。- 筋トレや有酸素の習慣がない人。
- 1日のタンパク質摂取が
60gを切っている人。 - 短期間で
BMIを5以上落とした人。 - 高用量のまま運動を追加しない人。
特に、女性で筋トレ歴ゼロという組み合わせは要注意です。 握力が落ちはじめると、瓶のフタが開かない、買い物袋が重い。 体重計の数字だけ追っていると、半年後に体組成計で現実を知ることになります。
30代後半の女性、ウゴービ4カ月:「体重は
7kg落ちて嬉しかったんです。ただ、ペットボトルのキャップが固く感じるようになって。先生に体組成を測ってもらったら、除脂肪量が2.5kg減っていました。プロテインと軽いスクワットを始めたのはそこからです」
この体感のズレ、SNSでもよく流れてきます。
違和感に気づくのは、だいたい 3–4カ月 目あたり。
そこで対策を入れる人と入れない人で、1年 後の体組成はかなり開きます。
日本の生活動線で考えると、筋肉の衰えが最初に出る場面ははっきりしています。 駅の階段で息が上がる、片手で荷物が持ち上げられない、床から立つときに手をつく。 電車とエスカレーター中心の都市生活は、日常の負荷がもともと軽い。 GLP-1で体重が落ちていくあいだ、意識して負荷を足さないと、筋肉を使う機会自体がなくなります。
筋肉を守る基本セット、2026年版
ESPEN 2022、ISSN 2024、AND 2024の肥満治療ガイドを束ねると、押さえどころは5つです。
- タンパク質:体重
1kgあたり1.2–1.6g/日。70kgなら84–112g。 - 1食あたりの分配:朝・昼・夕で
25–40gずつ。1食に偏ると合成効率が落ちます。 - 抵抗運動:週
2–3回、主要な筋肉群をひと通り。1回30分で十分です。 - 有酸素:1日
9000–10000歩。歩くこと自体が筋肉の目減り抑制に効きます。 - クレアチン (creatine monohydrate):1日
3–5g。筋トレと併用すると除脂肪量維持に効くというデータがあります。
体重別のタンパク質目標はこのあたりです。
| 体重 | 1日の目安 | 1食あたり |
|---|---|---|
| 50kg | 60–80g | 20–27g |
| 60kg | 72–96g | 24–32g |
| 70kg | 84–112g | 28–37g |
| 80kg | 96–128g | 32–43g |
| 90kg | 108–144g | 36–48g |
70kg の人が1食 30g を狙うとすると、鶏胸肉 120g、または納豆 1パック と卵 1個 と豆腐 半丁 の組み合わせ。
和食の定番で組み立てると、意外と届きません。
朝がごはんと味噌汁だけだと、10g を切る日も出てきます。
魚や卵を意識して足す設計が、いちばん続きやすいです。
腎機能に持病がある人は、タンパク質を増やす前に主治医に相談してください。
特にeGFRが 45 を切るあたりでは、増量自体がリスクになり得ます。
抵抗運動のハードルを下げるのも大事なところです。
週 3回 のジム通いが理想でも、続かなければ意味がない。
自宅でスクワット 15回 × 3セット、壁に手をついた腕立て 10回 × 2セット、ペットボトルを握ってのサイドレイズ 15回 × 2セット。
これだけでも、週 2回 のペースで続ければ、DXA上の骨格筋量に差が出てきます。
ジムに行けない週も、家でゼロにしない。そのくらいの運用が現実に回ります。
受診のとき、先生に聞いておきたいこと
診察室で話すテーマをリスト化しておくと、時間の使い方が変わります。
- いまの用量で、筋トレを週
何回入れるのが現実的か。 - タンパク質を
1.2g/kgまで増やして、腎機能の数値に問題はないか。 3–4カ月ごとにDXAやインピーダンスで体組成を見る場合、自費でいくらか。- 併用している他の薬で、筋肉量に影響しそうなものはあるか。
- 減量ペースが速すぎるとき、用量を据え置きにする選択はあるか。
- 終了後の維持フェーズで、筋肉を守る計画はどう組むか。
初回の受診で全部聞く必要はありません。 体組成のフォローを話題に出すだけでも、診療の方向はけっこう変わります。 DXAは肥満外来や一部の人間ドック施設で測れます。
処方前に確認しておきたいチェックポイント
ウゴービもマンジャロも、最初の受診で整理したいのはこの5つです。
- 自分の
BMIと合併症が、どの適応にあたるか。 - 保険診療になるのか、自由診療になるのか。
- 月の自己負担はだいたい幾らか。
- 処方を継続してくれる診療科はどこか。
- やめどきと、やめた後のフォロー体制はどうなっているか。
日本でGLP-1を扱う診療科は、内分泌・代謝内科、糖尿病内科、肥満外来、一部の美容皮膚科です。 肥満症の保険診療を続けて診てくれるのは、大学病院系と、肥満外来を構えた専門クリニックあたり。 美容皮膚科の自由診療は価格が分かりやすい反面、合併症の管理は薄くなりがち。 糖尿病や高血圧がある人は、内科併診が向いています。
個人輸入で先回りするのは避けてください。 偽造品のセマグルチドが市場に出ていて、副作用が出ても国内の救済制度(医薬品副作用被害救済制度)の対象外です。 値段が安く見えても、トータルでは割に合いません。
継続費用の見積もりも、最初の段階で具体化しておくと判断がぶれません。
ウゴービの自由診療が月 5万円 として、1年 で 60万円。
これにDXAの定期測定 年2回 で 1–2万円、プロテインや食材の追加で月 5000–10000円。
合計すると、年間で 70–80万円 くらい。
5年 続ける前提なら 300万円 を超えてきます。この数字を家計で受けとめられるかを、始める前に確認しておく価値があります。
日本人の体格で読み直すと、数字の意味が変わる
STEP 1とSURMOUNT-1の参加者は、平均 BMI が 35 を超える層が多めでした。
日本の肥満外来に来る人は、平均 BMI が 30 前後。女性なら 28–32 の帯も目立ちます。
同じパーセントの除脂肪量損失を当てはめると、絶対量としての筋肉減少は米国データより小さく見えます。
ただし、出発点の筋肉量そのものが少ない。
「同じ 2kg の除脂肪量損失」でも、米国の参加者と日本人女性では意味が違ってきます。
身長 158cm、体重 65kg の人が 2kg 筋肉を失うと、握力や階段昇降で体感が出てくる。
海外データを鵜呑みにせず、自分の出発点で換算する価値はここにあります。
50代男性、マンジャロ8カ月、
BMI 31 → 26:「体重は順調に落ちました。半年経った頃、妻に『姿勢が悪くなった』と言われて。体組成計で測ったら、骨格筋量が4kg近く減っていました。プロテインを1日2回に増やして、家でダンベルを始めて、3カ月で半分くらいは戻った感覚です」
DXAの自費料金は、施設によって 5000–10000円 ほど。
インピーダンス (BIA) なら、無料の体組成計を置いているジムでも測れます。
精度はDXAに劣るものの、3–4カ月 ごとに同じ機械と同じ条件で測れば、トレンドは十分に追えます。
和食でタンパク質 100g/日 を狙うのは、意識しないと届きません。
朝に卵 2個 と納豆 1パック(合計約 20g)、昼に鮭塩焼き定食(約 25g)、夕に鶏胸 120g と豆腐(約 35g)で、ようやく 80g。
プロテインドリンク 1杯 を足して、やっと 100g。これが日本の食卓での現実的な組み立てです。
続けるか、やめるか、その先の維持フェーズ
STEP 4のRubinoら (JAMA 2021) の解析では、20週 の導入後にセマグルチドを中止すると、1年 以内に減量分の 約2/3が戻る と報告されています。
この戻り方には偏りがあります。
脂肪は戻りやすく、筋肉は戻りにくい。
結果として体重は元に近づくのに、体脂肪率は前より高い、という残念な着地になりがちです。
bimagrumab + semaglutideの小規模Phase 2 (JAMA 2024, Heymsfield et al.) では、bimagrumabの併用で除脂肪量の損失が −79% 減ったというデータが出ています。 ただし第3相が動いている段階で、日本での承認時期は未定。 2026年4月時点の現実的な選択肢は、運動と食事の二本柱で守ることです。
維持フェーズに入るとき、用量を半分に落として続けるのか、完全に止めるのか、選択肢は複数あります。
減量幅 15% を達成したら、その水準を保つのにどれくらいの努力量が要るかを、見積もり直す時期。
次の受診で先生に話してみてください。
最後にひとつ。
GLP-1で 15% 落とすこと自体は、もう特別な話ではありません。
2026年の論点は、その 15% のうち何が落ちているかを見える化すること。
そして 5年、10年 続けられる生活の形に着地させることです。
60代、70代 の自分を予測する指標は、体重計の数字よりも、握力と歩行速度のほう。
そこを軸に治療を組み立てると、結果的にいちばん手堅いです。



