2025 年に SURMOUNT-5 の結果が出てから、この 2 剤の話はぐっとしやすくなりました。72 週の直接対決で、チルゼパチドは平均 −20.2%、セマグルチドは −13.7%。相対差でおよそ 47% の開き。これまでは STEP と SURMOUNT を別々に眺めるしかなかったので、同じ条件で 2 剤を並べた数字が出た意味は大きいです。
ただ、この数字をそのまま日本に持ち込むと、ちょっと話がずれます。
ニューヨークなら「Wegovy vs Zepbound」。ソウルなら「위고비 vs 마운자로」。東京だと、ウゴービに加えて、チルゼパチドの肥満症ブランドであるゼップバウンドが 2024 年 12 月に承認されました。同じ 2 分子の話をしていても、クリニックの窓口で出てくるブランド名が国ごとに違うんです。この記事は、そのズレを解きほぐします。薬理の違い、SURMOUNT-5 の読み方、そして 日本で処方箋に実際に書かれる薬の名前と値段 まで。
英語の Reddit を 30 分読んで「Zepbound に乗り換えたい」と意気込んで受診したら、日本でも同じ分子が同じ Zepbound(ゼップバウンド)という名前で承認されている。ただしマンジャロは糖尿病のまま据え置きで、肥満はゼップバウンドという別ブランドに分かれる。あの一瞬の戸惑いの正体が、このブランドの分かれ方です。
2 つの分子がやっていることは、少し違う
セマグルチド(semaglutide)は、GLP-1 受容体だけに結合します。GLP-1 は食後に腸から出るホルモン。これを真似て、胃の排出を遅らせ、視床下部の食欲シグナルを静かにして、血糖に応じたインスリン分泌を助けます。レバーは 1 本、そこをぐっと引く設計です。
チルゼパチド(tirzepatide)は GIP と GLP-1 の両方の受容体に結合します。GIP もインクレチン系のホルモンで、単独では減量レバーとして弱い。ところが GLP-1 と組むと話が変わります。インスリン感受性の改善、脂質代謝のシフト、満腹シグナルの増強。機序の細部はまだ詰め切れていない部分もありますが、臨床結果にははっきり差が出ます。
SURMOUNT-5 を待つまでもなく数字が開いていた理由も、ここにあります。STEP 1(NEJM 2021)ではセマグルチド 2.4 mg 週 1 回、68 週で −14.9%。SURMOUNT-1(NEJM 2022)ではチルゼパチド 15 mg 週 1 回、72 週で −20.9%。試験ごとに対象集団や期間が微妙に違うので、直接比較には注意が要ります。それでも 7–8 ポイントの差です。
薬理で読むなら「セマグルチド vs チルゼパチド」。制度で読むなら「ウゴービ vs ゼップバウンド(肥満)、マンジャロは糖尿病」。この 2 つを混ぜないほうが、あとで楽です。
SURMOUNT-5 が実際に示したこと
被験者 751 人、糖尿病のない肥満成人、72 週。チルゼパチド 10 または 15 mg の最大忍容量 vs セマグルチド 2.4 mg。結果は −20.2% vs −13.7% でした。
体重 90 kg なら、セマグルチドで約 12 kg 減、チルゼパチドで約 18 kg 減。体重 70 kg なら、それぞれ 9.6 kg と 14.1 kg。臨床目標が「ベースラインから 10–12% 落とす」なら、どちらでもクリアします。血圧、空腹時血糖、睡眠の質が変わってくるラインです。ただ 20% を超える水準まで狙うなら、SURMOUNT-5 ではチルゼパチド側に達成者が多かった、という話になります。
6 kg の差と聞くと、数字としては大きく見えます。でも生活実感だと「服のサイズが 1 つ動くかどうか」あたり。鏡の前で胸を張れるかどうかが変わるのは、案外 12 kg と 18 kg の差ではなく、ベルトの穴 1 つぶんだったりします。
副作用による中止率は、どちらも 4% 台で大きな差はありません。チルゼパチドのほうが減量幅は大きいけれど、忍容性はほぼ同じ。いまの読み方はここに落ち着きます。
数字が近いほど、最後の判断は数字以外で決まる。SURMOUNT-5 を読んだあとに小さく息を吐いたのも、たぶんそういうことだと思います。
日本で実際に処方される薬の名前をそろえる
ここが本題です。海外記事を読んで「じゃあ日本でもマンジャロで肥満治療できるんだ」と思うと、外します。チルゼパチドの肥満ブランドはマンジャロではなくゼップバウンドのほうです。2026 年 4 月時点の日本は、こう整理できます。
- ウゴービ(セマグルチド、週 1 皮下注)— 肥満症で PMDA 承認済み。2023 年 1 月承認、2024 年 2 月発売。ただし 保険適用には BMI や併存症の厳しい条件 があり、多くのクリニックでは実質的に自費診療です。
- オゼンピック(セマグルチド、週 1 皮下注)— 2 型糖尿病のみ。肥満目的は適応外です。
- リベルサス(セマグルチド、経口錠)— 2 型糖尿病で 3 mg / 7 mg / 14 mg。飲むタイプのセマグルチドとして美容クリニックの自由診療に流用される例もありますが、本来は糖尿病薬です。
- マンジャロ(チルゼパチド、週 1 皮下注)— 2 型糖尿病のみ。2022 年 9 月承認、2023 年 4 月発売。肥満症の適応はマンジャロには付いていません。
- ゼップバウンド(チルゼパチド、週 1 皮下注)— 肥満症ブランド。2024 年 12 月に PMDA 承認。米国の Zepbound と同じく、日本でもチルゼパチドの肥満適応はこのブランドに分かれています。
ここで押さえておきたいのが、オゼンピックとウゴービは同じセマグルチドでも別ブランドだという点。美容クリニックが「オゼンピックでダイエット」と書いていたら、それは糖尿病薬を肥満目的に流用している話です。薬機法・医療広告ガイドラインの観点でも、注意が要る領域です。
中身は同じ成分でも、箱のロゴが違う。ここは英語圏でもしょっちゅうこんがらがる地点で、米国の薬剤師が患者に 5 分かけて説明している場面を、海外の医療ポッドキャストで何度か聞きました。
「マンジャロで痩せた」という X の口コミを見かけても、日本でマンジャロという商品名に付いているのは糖尿病の適応だけです。肥満の適応はゼップバウンドのほう。マンジャロを肥満目的で使うなら医師の裁量によるオフラベル処方で、クリニックによって対応は分かれます。
9 市場のブランド早見表
海外在住の方、出張が多い方、あるいは家族が海外で処方された薬について相談された方へ。2026 年 4 月時点の整理です。
| 市場 | セマグルチド(肥満) | セマグルチド(糖尿) | チルゼパチド(肥満) | チルゼパチド(糖尿) |
|---|---|---|---|---|
| 日本 | ウゴービ (2024-02 発売) | オゼンピック / リベルサス | ゼップバウンド (2024-12 承認) | マンジャロ (2023-04 発売) |
| 米国 | Wegovy / 経口 Wegovy 25 mg (2026) | Ozempic / Rybelsus | Zepbound | Mounjaro |
| 韓国 | 위고비 (2024-10 発売) | 오젬픽 | 마운자로 (2024-07 承認) | 마운자로 |
| 中国本土 | 诺和盈 (2024-11 発売) | 诺和泰 | 穆峰达 (2025 発売) | 穆峰达 |
| 台湾 | 週纖達 / Wegovy (2025) | 胰妥讚 / Ozempic | 猛健樂 (2025) | 猛健樂 |
| 香港 | Wegovy | Ozempic | Mounjaro (2024) | Mounjaro |
| EU | Wegovy (2022-01) | Ozempic / Rybelsus | Mounjaro (2024-04) | Mounjaro |
| サウジアラビア | Wegovy | Ozempic | Mounjaro (2024) | Mounjaro |
| UAE | Wegovy (2023-07) | Ozempic | Mounjaro (2024) | Mounjaro |
この表で目に留まる点が 2 つあります。ひとつは、チルゼパチドを Zepbound(肥満)と Mounjaro(糖尿)の 2 ブランドに分けているのは米国と日本だということ。日本もゼップバウンド(肥満)とマンジャロ(糖尿)に分かれます。韓国・中国・EU・中東は、マンジャロ系の単一ブランドで両適応をカバーします。もうひとつは、日本のチルゼパチド肥満適応(ゼップバウンド)は 2024 年 12 月承認と比較的新しいこと。韓国・中国・EU・中東もすでに取得済みで、肥満適応そのものは各市場に出そろっています。
日本で落とし穴になりやすい 5 つのポイント
ここ、けっこう混乱しやすいので、先に整理しておきます。
- チルゼパチドの肥満ブランドは日本ではゼップバウンド(2024 年 12 月承認)。米国の Zepbound の記事を読んで「日本でも肥満にマンジャロを処方できますか?」と聞くと、多くのクリニックで「マンジャロは糖尿病の適応で、肥満ならゼップバウンドになります」と返ってきます。
- ウゴービの自費価格は月 約 70,000–84,000 円。保険適用が通るのは BMI 35 以上などの条件を満たす専門外来が中心で、多くの受診者にとっては自由診療扱いです。
- マンジャロの 2 型糖尿病での保険 3 割負担は月 約 7,000–15,000 円。肥満目的での自費処方をしているクリニックもあり、その場合は月 約 20,000–30,000 円が相場です。
- オゼンピックとウゴービを混同しない。同じセマグルチドでも、処方できる文脈が違います。
- リベルサスの肥満向け高用量(米国の経口 Wegovy 25 mg)は日本では未承認。リベルサスは 7 mg / 14 mg までで、位置づけはあくまで糖尿病薬です。
用量はどちらも階段を登るように増やす
GLP-1 系の薬は、いきなり高用量に入れると、胃腸症状で 1 週間以上動けなくなる人が出ます。だから、どちらも 4 週ごとに少しずつ増やすのが基本です。
| 薬 | 用量ステップ(週 1 皮下) | 最終用量までの最短 |
|---|---|---|
| ウゴービ / セマグルチド | 0.25 → 0.5 → 1.0 → 1.7 → 2.4 mg | 16 週 |
| マンジャロ / チルゼパチド | 2.5 → 5 → 7.5 → 10 → 12.5 → 15 mg | 20 週 |
チルゼパチドのほうが段が 1 つ多い。より高い最終用量まで行くぶん、身体を慣らすステップを増やしている、と読むのが自然です。急ぎたい気持ちはわかります。ただ、ここを飛ばすと副作用の出方がきつくなる。「あと 1 段、下げておけばよかった」という後悔を、開発元はあらかじめ織り込んでいる。そんな見方もできます。
増量のタイミングで吐き気や下痢がぶり返すのは、両薬に共通する現象です。体重が止まったと思って用量を上げた直後に、便秘と倦怠感が 1 週間続く。これもよくあるパターンです。
副作用の出方、収まり方
STEP 1 と SURMOUNT-1 で報告された 5% 以上の副作用を並べると、こうなります。
| 副作用 | セマグルチド 2.4 mg | チルゼパチド 15 mg |
|---|---|---|
| 吐き気 | 約 44% | 約 29% |
| 下痢 | 約 30% | 約 21% |
| 嘔吐 | 約 24% | 約 17% |
| 便秘 | 約 24% | 約 17% |
| 中止率 | 約 4.5% | 約 4.3% |
表だけ見ると、チルゼパチドのほうが楽そうに見えます。ただ外来の実感はもう少し複雑で、増量期の症状はチルゼパチドでも相当出ます。とくに 7.5 mg から 10 mg に上げるタイミングで、吐き気が戻る人は多い。8–12 週で慣れる人が多数派ですが、ここで脱落する人もいます。
打った翌日、午後 2 時くらいに「あ、これ来るな」と気配がする、あの独特の感覚。胃が止まったまま夕方を迎える、少しグレーな時間帯は、数字の表にはどうしても載りません。
両薬に共通する、まれだけど押さえておきたい話も書いておきます。
- 急性膵炎 — 持続する激しい上腹部痛は受診のサイン
- 胆のう炎 / 胆石 — 急な減量でも増える現象。GLP-1 で追加リスク、との報告あり
- 糖尿病網膜症の増悪(セマグルチドで SUSTAIN-6 の報告あり)
- インスリンやスルホニル尿素との併用で低血糖
- 甲状腺髄様癌 / 多発性内分泌腫瘍 2 型(MEN2)の家族歴は禁忌(箱枠警告)
親族に甲状腺髄様癌の方がいる、過去に膵炎をやったことがある。こうした背景があるなら、比較記事を読むより先に医師へ伝えてください。判断の分岐点が、そこで変わります。
処方前に診察で確認しておきたいこと
診察室で話が早く進むのは、前情報がそろっているときです。スマホにメモして持っていくと便利です。
- 現在の身長・体重・BMI、ここ 3–6 カ月の体重推移
- BMI と併存症(2 型糖尿病、脂質異常症、高血圧、睡眠時無呼吸)
- 服用中の薬、とくにインスリン、スルホニル尿素、経口避妊薬
- 甲状腺の病気や家族歴、過去の膵炎・胆のう手術歴
- 妊娠予定の有無(妊娠計画がある方は投与中止のタイミング相談が必要)
- 月にかけられる予算の現実的な上限
診察のときに聞いておくと楽な質問
これ、そのままコピペして使ってもらって大丈夫です。
- 私の BMI と併存症で、ウゴービの保険適用は通りますか
- 自由診療になる場合の月額はいくらくらいで、用量ごとに変わりますか
- チルゼパチドならゼップバウンド(肥満適応)で処方する方針ですか、それともウゴービに絞りますか
- 副作用が強く出た場合、用量を下げる or 薬を変える、どちらの方針ですか
- 投与をやめるときは、段階的に減らしますか、それともそのまま終了ですか
- 目標体重に到達したあと、維持期は何 mg でどれくらい続ける想定ですか
- 来院間隔は月 1 回ですか、オンライン診療は使えますか
- 個人輸入した薬を持ち込んだ場合、併用や切り替えの相談は受けてもらえますか
価格の目安(2026 年 4 月時点)
日本円で、標準用量を前提にした目安です。施設差が大きいので、具体的な金額は各クリニックの料金表で確認してください。
| 項目 | 日本 | 米国 | 韓国 |
|---|---|---|---|
| ウゴービ / Wegovy / 위고비 自費 | 月 約 70,000–84,000 円 | 月 約 $1,349(NovoCare 現金 $499) | 月 約 210,000–370,000 ウォン |
| マンジャロ 糖尿病(保険 3 割) | 月 約 7,000–15,000 円 | — | — |
| マンジャロ 自費(肥満オフラベル) | 月 約 20,000–30,000 円 | Zepbound 月 約 $1,086(LillyDirect $349–499) | マンジャロ 月 約 170,000–270,000 ウォン |
米国の Zepbound 現金プランや NovoCare の自社直販価格は、正規ルートで自費を払うケースの実質負担を大きく下げる選択肢として働いています。日本にはこの種の自社直販スキームがまだ入っていないので、同じ分子でも、感覚値としては米国のほうが安く見える場面があります。そこは押さえておいて損はありません。
米国の X で「349 ドルで打ち始めた」という投稿を見て、つい電卓を叩いてしまう瞬間。日本円換算で月 5 万円台。そこから「日本だと…」と比べ始めて、ため息になる人は、かなり多いと思います。
個人輸入は勧められない
X や Instagram で「海外通販で安く買えました」という投稿を見かけます。気持ちはわかります。ただ 偽造品の混入、コールドチェーン(冷蔵輸送)の破綻、トラブル時に日本の医師が責任をとれないことは、どうしてもリスクとして残ります。2024–2025 年には複数の国で GLP-1 偽造品の摘発が報告され、ラベルだけ本物でペン内部が別物、という事例もありました。
月額が気になるなら、まず保険適用の条件に合うかをクリニックで確認し、そのあとで自由診療の見積もりを比べる。この順番のほうが安全です。
国内でもオンライン診療対応のクリニックは増えています。値段だけで個人輸入に振れる前に、正規ルートの選択肢を一度当たってみる価値はあります。深夜に「あと一歩でカートに入れるところだった」と冷や汗をかいた人は、たぶん想像以上に多いはずです。
日本の今、まとめるとこう
2026 年 4 月の時点で、日本の読者にとって現実的な選択肢の見取り図です。
- 肥満症で正規ルートで治療したい → ウゴービ。保険適用が通れば 3 割負担、通らなければ月 7 万円台の自費。
- 2 型糖尿病があり、減量もしたい → 主治医と相談のうえでマンジャロかオゼンピックが候補。どちらも保険適用内。
- 糖尿病なしで、チルゼパチドを試したい → 肥満の適応はゼップバウンド(2024 年 12 月承認)に付いています。マンジャロは糖尿病の適応なので、肥満で使うならゼップバウンドを扱うクリニックを探すのが筋です。
- 海外で処方された薬を持ち帰ってきた → 必ず日本の医師に見せて、成分・用量・残量を確認してもらう。
最後にひとつだけ。この記事の数字は 2026 年 4 月時点の情報です。ゼップバウンドの供給状況や、新しい経口高用量セマグルチドの承認は、ここから数カ月で景色が変わる可能性があります。受診の直前には、PMDA(医薬品医療機器総合機構)のサイトで最新情報を確認しておくと安心です。
ここまで整理しておくと、診察室で「どっちがいいですか?」と尋ねる前に、「自分の条件なら、どのルートが現実的か」を先に言葉にできます。医師との会話が具体的になるぶん、遠回りは確実に減ります。
この記事は健康に関する一般的な情報提供を目的としており、医療行為や診断・治療の代わりにはなりません。記事中のGLP-1薬はすべて処方薬です。服用・注射の開始・変更・中止は必ず医師にご相談ください。効果には個人差があります。最新の添付文書はPMDAウェブサイトでご確認ください。
参考文献
本記事の事実に関する記述は、以下の一次資料に照らして確認しています。
- PubMed (NIH)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40353578
- PubMed (NIH)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33567185
- PubMed (NIH)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35658024
- PubMed (NIH)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37952131
- PubMed Central (NIH)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9542252



