ウゴービを打ち始めて4ヶ月目の夜だった。ソファでマネーフォワードを開いて、思わず固まる。食費のグラフが6万円台に落ちている。前年同月は8万2,000円。「えっ、こんなに?」と画面に顔を近づけてしまった。コンビニの「ちょい買い」だけで月1万円近く抜かれていたことを、アプリが淡々と教えてくれる。
一方で、ジムの引き落としは38,000円。半年前の明細には存在しなかった行だ。
薬代が月3〜5万円かかることは、最初から覚悟していた。想定外だったのは、それ以外の支出までドミノ式に動き始めたこと。コンビニのレジ袋が軽くなる。2次会に行かなくなる。メルカリにLサイズの服を大量出品するはめになる。GLP-1は体重計より先に、クレジットカードの明細を書き換えてくる。これ、案外みんな後から気づくんですよね。
コンビニ代、月1万円が消える
総務省の家計調査(2024年報)では、単身世帯の食費は月平均4万5,000円前後。2人以上世帯で8万円前後。GLP-1ユーザーの食料品支出を直接測定した大規模な対照研究はまだないが、患者コミュニティの自己申告では概ね1割前後の減少を報告する声が多い。2人以上世帯なら月8,000〜12,000円、単身なら4,500〜7,000円くらいの計算。
消えていくのは、たいてい「なんとなく系」の支出だ。自分でもどこに使っていたか把握できていない、あの手の出費。
- 仕事帰りに手が伸びるファミチキとからあげクン
- 夜のポテチ。冷凍庫のハーゲンダッツ
- 甘い缶コーヒーと
500mlのコーラ - レジ横のブラックサンダー
Xでは「セブンのホットスナック棚を素通りできた」という報告が山ほど流れてくる。これ、わかる。鼻先に届くあの揚げ油の匂いに、「あ、別に」と思えてしまうんですよね。GLP-1を始める前の自分とは、もう別人みたいになる。
ただ、減った分がそのまま浮くわけでもない。代わりにカゴへ入っていくのが、サラダチキン200〜250円、ギリシャヨーグルト200〜300円、プロテインバー150〜250円。安い炭水化物が消えて、その席に高いタンパク質が座る、という入れ替わりが起きる。
差し引きで浮くのは10%くらい。劇的じゃない。ただ年間で5〜14万円の差(世帯規模で幅がある)。ボディブローのように効いてくる。
食べ放題で元が取れない
外食費は単身で月1万5,000〜2万円前後(総務省家計調査2024年報)。GLP-1ユーザーはここで"構造的な損"を抱える。
焼肉食べ放題3,500円、しゃぶしゃぶ4,000円。以前なら余裕で元を取れていた。それが、3皿で箸が止まる。タンを2切れ食べたあたりで「あ、これ終わったな」と心の中で苦笑いするしかない。
「食い放題で3皿しか食えんの草 3,500円返せ」 — ダイエット板、こういう書き込みは週3では済まない
| 外食パターン | 以前 | GLP-1後 | 差額/回 |
|---|---|---|---|
| 焼肉食べ放題(月0〜1回) | 3,500円で元取り | 元が取れず単品に切替 | 単品なら会計が約−2,000円 |
| 平日ランチ(月20回) | 定食1,000円+デザート300円 | 定食のみ、ご飯少なめ | 約−300円/回 |
| カフェ(月4回) | ドリンク+ケーキ 900円 | ブラックコーヒーだけ | 約−400円/回 |
| コンビニ昼食(月10回) | 弁当600円+おにぎり | おにぎり1個 | 約−400円/回 |
全部が当てはまる人は少ないし、頻度は人による。現実的にはトータルで月5,000〜8,000円の減。ただし「少ししか食べない自分」が会食で微妙な空気を生むこともある。友人に「体調悪い?」と聞かれる問題は飲み会・外食の立ち回りガイドで書いた。
酒が要らなくなる
GLP-1を始めて一番驚いたのは、酒への興味が消えたこと。
総務省家計調査だと、単身世帯のアルコール支出は月2,000〜3,000円。飲み会込みなら10,000〜15,000円になる。
これ、気のせいじゃないかもしれない。2025年にJAMA Psychiatryで報告されたランダム化試験(Hendershot et al.、参加者48名・9週間)では、セマグルチドが飲酒量・大量飲酒の日数・飲酒欲求を減らしている。ただし小規模・短期の試験なので、大規模な検証はこれからの段階だ。患者コミュニティの自己申告では2〜4割減という声が多い。とはいえ、ほかの生活変化も同時に起きている非対照の観察なので、因果まではまだ言いきれない。メカニズムも確定していないけれど、食欲と飲酒欲求が脳の報酬系で重なっている、という仮説が有力らしい。アルコールとGLP-1の関係はGLP-1とアルコールガイドに詳しく書いた。
意図的に禁酒したわけじゃない。体が勝手に「要らない」と判断してくる。冷蔵庫の缶ビールを見ても、「飲もう」というスイッチがそもそも入らない。体感としては、こんな感じだった。
- 生ビール1杯目で「もう十分」になる
- 2次会に行く気力がない
- ストロング系チューハイが胃にきつくて飲めない
- 日曜昼のビールという習慣が消えた
「金曜のストロングゼロが自然消滅した。意識して我慢したわけじゃないのがちょっと怖い」 — X「#リベルサス記録」より
日本の会社員が飲み会ゼロは現実的じゃない。でも月3回が1〜2回になるだけで、飲み代は月3,000〜8,000円減る。年間3.6〜9.6万円。忘年会シーズンのダメージ軽減が特に大きい。2次会に行かないだけでタクシー代も消える。
ジム代 — 最大の「増える出費」
ここまでは減る話。ここからは、逆に増えていく出費の話をしたい。
セマグルチドのSTEP 1試験(Wilding et al., NEJM, 2021)では、落ちた体重のうち30〜40%が除脂肪体重(筋肉含む)だった。チルゼパチドのSURMOUNT-1試験では約25%で、薬剤によって幅がある。患者コミュニティでは「25〜40%が筋肉」という数字が広く出回っている。いずれにせよ、脂肪だけキレイに落ちてくれない。筋肉も持っていかれる。
「痩せたのに、なんかたるんでる」「前より基礎代謝が落ちた気がする」。この壁にぶつかる人が、本当に多い。最近は処方医のほうから「筋トレは必須ですよ」と言われるケースも増えていて、薬を始めるとジム入会がほぼセットになりつつある。
| ジムの種類 | 月額 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 24時間ジム(エニタイム等) | 7,000〜9,000円 | 自分でメニューを組める |
| 総合ジム(コナミ、ルネサンス等) | 10,000〜15,000円 | プール・スタジオも使いたい |
| パーソナル週1回 | 30,000〜50,000円 | 筋量維持を確実にしたい |
| パーソナル週2回 | 50,000〜80,000円 | 本気で体組成を管理する |
24時間ジムだけなら月8,000円。パーソナルを週2回つけると8万円。なんと幅が10倍もある。実際は、エニタイム+月2回パーソナルで25,000円くらいの中間ゾーンに落ち着く人が多い。あまり語られないけれど、薬代を払っている人ほど「ここで筋トレ代をケチると、結局いちばん元が取れない」という結論にたどり着くんですよね。
「薬代よりパーソナルのほうが高くて笑う。でもたるみ防止には必要だから、もう諦めてる」
トレーナーに「GLP-1を使っている」と伝えると、タンパク質の摂取量や運動強度を調整してくれるところが増えている。黙っていると通常のダイエット指導になるので、正直に伝えたほうがいい。具体的なメニューはGLP-1中のトレーニングガイドに整理した。
クローゼットが全滅する
10kg以上落ちると、手持ちの服はほぼ着られなくなる。クローゼットの扉を開けて「これ全滅か…」とつぶやく日が来る。パンツのウエストはブカブカ、シャツの肩は落ちる。スーツにいたっては、もう論外だ。
総務省家計調査で、年間被服費は平均10万円。GLP-1で体型が変わった年はこれが15〜20万円に跳ね上がる。追加5〜10万円。ベルトの穴を詰めるだけでは済まない。
ここで効くのがメルカリとラクマ。サイズアウトした服を出品して、次のサイズを同じアプリで買う。ブランド物のジャケットやコートなら数千〜数万円で動く。Lサイズのスーツ2着がメルカリで14,000円で動く、というのは現実にあるレンジ。元値を思うと切ないが、クローゼットで眠らせるよりマシだ。
ここで賢いのは、段階的に買い替えること。体重が安定するまでは、ユニクロやGUで「つなぎ」を調達しておく。高い服に手を出すのは、体重が落ち着いてからでいい。半年で15kg落ちた人が、途中で3万円のジャケットを買い、2ヶ月後にはサイズアウトして泣いた——そんな話、本当によく聞く。この一手だけで、追加出費を5〜8万円に収められる。
薬代の現実 — 保険と自由診療で10倍違う
GLP-1の薬代は、保険適用かどうかで桁が変わる。
保険適用: 2型糖尿病の治療なら、オゼンピックもマンジャロ(チルゼパチド)も保険が効く。3割負担で月数千円。ウゴービ(セマグルチド)は2024年2月に肥満症治療薬として薬価収載されたが、BMI35以上(または27以上で2型糖尿病・高血圧などの合併症あり)が条件で、処方できる施設も限られる。
自由診療: ダイエット目的は全額自己負担。クリニックが自由に値段を決める。
| 薬 | 自由診療の月額 | 補足 |
|---|---|---|
| リベルサス(3mg→14mg) | 15,000〜35,000円 | 経口。用量で幅が大きい |
| オゼンピック(0.25→1.0mg) | 25,000〜50,000円 | 週1回の皮下注射 |
| マンジャロ(2.5→15mg) | 30,000〜60,000円 | 週1注射。高用量は高い |
| ウゴービ(保険3割) | 3,000〜8,000円 | BMI基準が厳格 |
Xでは「〇〇クリニック、先月より5,000円値上がりしてた」という価格変動レポートがリアルタイムで流れてくる。自由診療は薬価基準がないので、クリニック側の裁量で値段が動く。オンライン診療で3〜4院を比較してから決める人が多い。
個人輸入は偽造品リスクが深刻だ。厚生労働省も繰り返し注意喚起している。かかりつけ医かオンライン診療で正規の処方を受けてほしい。保険・費用の全体像はGLP-1の費用と保険ガイドにまとめてある。
サプリが増殖する
食事量が減ると、栄養に穴が開く。
特にタンパク質が問題になる。減量中の筋肉維持にはISSN(国際スポーツ栄養学会)の推奨で体重1kgあたり1.2〜1.6gが目安とされていて、体重60kgなら1日72〜96g必要。食が細くなった状態で食事だけから摂るのはかなりきつい。プロテインに頼るのは自然な流れだ。目標量の立て方は1日のタンパク質ガイドに詳しく書いた。
月額の内訳はこうなる。
- プロテインパウダー:
3,000〜5,000円。ホエイ派とソイ派でXが燃える - マルチビタミン:
1,000〜3,000円。B群と鉄が足りなくなりやすい - コラーゲンペプチド:
2,000〜4,000円。急な減量で肌のハリが気になる人向け - 食物繊維:
500〜1,500円。便秘対策
ここまで合計すると、月5,000〜12,000円の新規出費になる。とはいえ、食費の減少分と相殺して、実質トントンに落ち着くことも多い。注意したいのは「買って安心して、結局飲まない」パターン。プロテインの袋が未開封のまま棚に並んでいたら、それはもう寄付金みたいなものだ。
オゼンピック顔とスキンケア代
体重が急に落ちると、顔の脂肪パッドも縮む。頬がこけて、ほうれい線が深くなり、目の下がたるむ。海外では "Ozempic face" と呼ばれていて、日本でも「オゼンピック顔」の検索が急増している。とくに30代後半以降で15kg以上落とした人に多い印象だ。
4ヶ月で8kg落ちたあたりで、鏡の中のほうれい線がふっと深く見える朝が来る。まだ深刻というほどじゃない。ただ、洗面所で頬を指で引っ張ってみる回数が、確実に増えていく。これが典型的なパターンだ。
対策にかかる金額はこうだ(2026年時点のアットコスメ・ホットペッパービューティーの価格帯を参考)。
- レチノール美容液: 月
3,000〜8,000円 - 高濃度ビタミンC美容液: 月
2,000〜5,000円 - 日焼け止め(グレードアップ): 月
1,000〜3,000円 - ヒアルロン酸注入(美容皮膚科): 1回
50,000〜100,000円
スキンケアだけで月5,000〜15,000円増。美容皮膚科でのヒアルロン酸注入まで視野に入れると、年間10万円を超えることもある。急いで痩せるほど顔への影響は大きくなる。ただし個人差が大きく、30代前半までなら肌のハリが保たれやすい。
体重が減って数字はうれしいのに、鏡を見ると老けた気がする。この矛盾はGLP-1ユーザーあるあるだ。予防と対処法はオゼンピック顔の予防ガイドに書いた。
月のトータル収支
ここまでの数字をまとめる。
| 項目 | 月額の変動 | 方向 |
|---|---|---|
| 食費 | −8,000〜12,000円 | ↓ |
| 外食費 | −5,000〜8,000円 | ↓ |
| 飲み代 | −3,000〜8,000円 | ↓ |
| ジム代 | +7,000〜80,000円 | ↑ |
| 服代(年額の月割) | +4,000〜8,000円 | ↑ |
| 薬代(自由診療) | +15,000〜50,000円 | ↑ |
| サプリメント | +5,000〜12,000円 | ↑ |
| スキンケア | +5,000〜15,000円 | ↑ |
減る合計: 月16,000〜28,000円
増える合計: 月36,000〜165,000円
トータルでは月0.8〜15万円の純増になる。振れ幅がここまで大きいのは、薬代とジム代の選択肢が広いせいだ。つまり、お金のかけ方は自分でかなりコントロールできる、ということでもある。
イメージしやすいように、現実的なモデルケースを2つ挙げてみる。
ケースA: ミニマム構成
24時間ジム+パーソナルなし+サプリ最小限。リベルサス14mg(月30,000円)。食費の減少を引いて、月の純増は3〜4万円。
ケースB: ウゴービ保険適用
BMI基準を満たして保険適用。薬代3,000〜8,000円、24時間ジム8,000円。食費・外食の減少を引くと、月の純増は1〜2万円。生活の質が上がる分を考えれば、十分に割に合う。
数字に出ない変化
可処分時間が増える。夜のダラダラ食いが消えると、30分〜1時間の空白がぽっかり生まれる。この枠をそのままジムに充てる人が多い。ただ、テレビを見ながらポテチに伸びていた手が宙に浮く感覚は、正直、最初はちょっと寂しい。
終電で帰れるようになる。2次会に行かなくなるからだ。それだけでタクシー代3,000〜5,000円がまるごと浮く。
健康診断の数値が動く。HbA1cや中性脂肪が改善に向かうケースが多い。日本糖尿病学会の推計では、糖尿病患者の年間医療費は合併症を含めると20〜50万円にもなる。予防として見れば長期の投資効果は大きい。ただし、数値が改善しても自己判断で通院をやめてはいけない。主治医の指示に従って定期的な採血を続けてほしい。
衝動買いが減る。Xでは「Amazonのカートに入れたまま3日放置して、結局買わなかった」「コンビニのレジ横を素通りする自分に驚いた」という報告が目立つ。「あ、これ別に要らないな」と気づくまでの一拍が、前より長くなる感じ——そう表現する人もいる。GLP-1が脳の報酬系に作用して、食欲以外の衝動まで静かになるのでは、という仮説もある。とはいえ、買い物への効果をはっきり裏づける大規模なランダム化試験は、まだない。
よくある質問
Q. 薬代は医療費控除の対象? A. 医師の処方があれば対象になる。自由診療でも治療目的と認められれば控除を受けられるケースがある。領収書は必ず保管してほしい。美容目的だけだと否認される可能性があるので、確定申告時に税務署か税理士に確認を。
Q. ジムに通わないとダメ? A. 筋肉量の維持を軽く見ると、基礎代謝が落ちてリバウンドのリスクが上がる。ジムが難しいなら自宅での自重トレーニングでも構わない。週2回、30分ずつ。何もしないのが一番まずい。
Q. 食費の減少で薬代をカバーできる?
A. 食費+外食+飲み代で月2万円前後浮くが、自由診療の薬代3〜5万円を完全にカバーするのは難しい。保険適用のウゴービなら十分にペイする。
Q. メルカリの売上に確定申告は必要?
A. 自分が着ていた衣類の売却は原則非課税。ただし1点30万円超の高級品や、転売目的の継続的な売買は課税対象になる。不安なら年間の売上額をメモしておいて、確定申告前に確認するのが安全だ。
結局のところ、GLP-1で動くのは体重だけじゃない。財布の中身も、夜の過ごし方も、クローゼットの中身まで、まるごと書き換わっていく。薬代だけ見て「高い」「安い」を判断すると、たいてい想定が外れる。減る出費と増える出費を両方テーブルに並べてから決める——それが、後悔しないいちばんの近道だと思う。判断材料の一つになれば幸いです。
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