自費でGLP-1(GLP-1受容体作動薬)を打ちはじめて、半年が過ぎました。体重は順調に落ちて、正直、うまくいっていた。でも、毎月の費用と吐き気が重なって、ある月、私は注射をやめました。
それから数か月。鏡のなかの体が、じわじわ戻ってきています。「また始めたほうがいいのかな」。頭の片隅では、もっと苦い声もしていました。「続けられなかったのは、私だけなんじゃないか」と。
同じ言葉で検索して、ここへたどり着いた人へ。まず、数字から見せます。この道の途中で足を止めた人は、あなたが想像しているより、ずっと大勢います。
背中を押したいわけでも、引き止めたいわけでもありません。渡したいのは、地図です。「やめた人」も、「また始めるか迷っている人」も、いま自分が全体のどのあたりに立っているのか。それが見えれば、次の一歩は、ずっと選びやすくなります。最後に決めるのは、あなたと、あなたの主治医です。
やめたのは、あなただけじゃない
米国の大きなコホート研究があります。もとにしているのは、保険請求や電子カルテといった、実際の診療の記録です。GLP-1を新しく始めた大人を、そのまま追いかけたデータ。ここを外さないでほしいのですが、臨床試験の脱落率ではありません。日常のなかで薬を使いはじめた人たちの、生の足あとです。
出てきた数字は、こうでした。1年以内にやめていた人が53.6%。2年たつと72.2%。始めた人の半分以上が、1年を待たずに手を止めていたことになります。
半分以上がやめている。試験のなかの話ではなく、実際に薬を使いはじめた人たちの数字です。
この53.6%を見たとき、私は少しだけ肩の力が抜けました。続かなかったのは、根性が足りなかったからじゃないのかもしれない。まずは、そこから始めさせてください。
試験の脱落率と、日常診療での中断率は、まったくの別ものです。試験は費用が守られ、通院のフォローもある。いわば「守られた環境」で出た割合です。いっぽう実データが背負っているのは、むき出しの現実です。お金、忙しさ、薬の手に入りにくさ。全部がそのまま乗ってきます。だから53.6%や72.2%のほうが、あなたや私の暮らしに近い数字になります。半分以上という重みは、そこから来ています。
なぜ、みんなやめていくのか
同じ研究のなかでも、やめる割合は人によってかなり違いました。2型糖尿病がある人は、1年以内で46.5%。ない人、つまり体重のために使っていた人は64.8%。体重目的で始めた側のほうが、はっきり多く離脱していました。
なぜ、そちら側が多いのか。理由ごとに割合を分けたデータは、この研究にはありません。だから私が「◯◯が何%」と勝手に断言することはできない。それでも、よく耳にする事情はいくつかあります。
- お金。日本では、ダイエット目的のGLP-1は基本的に自由診療(全額自己負担)です。月数万円規模になることが多いですが、金額はクリニックや用量によって幅が大きい。糖尿病なら保険がきくケースもあります。
- 吐き気やお腹の不調が長引いて、暮らしとの折り合いがつかなくなった。
- 目標にしていた体重に届いて、いったん区切りをつけた。
- 通院やオンライン診療の手間、薬そのものの入手のしづらさ。
私の場合は、お金と吐き気の合わせ技でした。糖尿病はないので、当然まるごと自費です。この数字を見て、私と同じ「体重目的」の側に離脱が寄っているのも、妙に腑に落ちました。
体重のためだけに打っていると、続ける理由が「見た目」に寄っていきます。そこへ毎月の自費がのしかかる。すると、財布と相談する回数がじわじわ増える。検査値や合併症という後ろ盾を持つ糖尿病の人にくらべて、動機がゆらぎやすいのは、正直、想像がつきます。46.5%と64.8%の差は、たぶんこのあたりの気持ちの温度差でもあるのでしょう。
もう一つ、こぼれがちな話があります。目標に届いた人の中断です。減らしたい体重まで落ちて、「もう十分かな」と自分で幕を引く。これも立派な中断で、失敗とはまったく別もの。ところが、届いたはずなのにやめたら戻ってきた。その戸惑いが、次の話につながります。
ここで一つ、はっきりさせておきます。やめた理由がお金でも副作用でも、それは「治療に向いていない人」の証明ではありません。ただの、続け方の問題です。
やめると戻る。でも、失敗ではない
いいことばかり書くのはフェアじゃないので、そのまま出します。やめれば、体重はある程度は戻ります。ここは避けようがありません。
手がかりになるのが、セマグルチド(semaglutide)2.4mgの肥満症用、日本でいうウゴービにあたる薬の、STEP 1という試験の延長研究です。薬をやめたあと、体重がどう動くのかを、長い時間をかけて追いました。
薬をやめて1年ほど、試験でいう120週目のことです。参加者は、前に減っていた体重のおよそ3分の2を取り戻していました。体重でいえば、11.6ポイントぶんが戻った計算です。それでもスタート時とくらべれば、正味ではまだ5.6%軽いまま。戻ってきた分と、まだ残っている減量。別ものです。この二つを分けて見ると、体重が戻るという現象を、必要以上に怖がらずにすみます。
比べるために、偽薬(プラセボ)側も並べます。
| 区分 | 120週目までに戻った分 | 開始時からの正味の減量 |
|---|---|---|
| セマグルチド(ウゴービ) | 11.6ポイント | 5.6% |
| プラセボ(偽薬) | 1.9ポイント | 0.1% |
薬を使っていた側は、スタート時とくらべて正味5.6%は減ったまま。偽薬側は0.1%で、ほぼ元の位置まで戻りました。戻りはする。でも、ゼロに巻き戻ったわけでもない。そういう読み方ができます。
そして、私にいちばん効いたのが、この一文でした。延長研究の著者たちは、体重が戻るこの結果を「肥満が慢性の病気であることの裏づけ」として受け止めています。
戻ってくるのは、あなたの意志が弱いからではありません。肥満が慢性の状態だから、というのが研究の読み方です。
高血圧の薬をやめれば、血圧はまた上がります。それを「意志が弱い」と責める人はいません。GLP-1をやめて体重が戻るのも、私はこれと同じ種類の話だと理解しました。
体にもともと備わった、食欲やエネルギーを調整する仕組みは、体重が減ると「元へ戻そう」と働きだします。薬はその力に、一時的なブレーキをかけているだけ。やめれば、ブレーキは外れます。つまり戻るのは、あなたが気を抜いたからではなく、体がそういう設計になっているから。3分の2という数字は重く見えるかもしれません。でも私はむしろ、「なんだ、これは体の仕組みの話なんだ」と、責める矛先を自分から下ろせました。
また始める人も、同じくらいいる
「やめた=そこで終わり」ではありません。同じ実データのコホートには、やめた後にもう一度始めた人の割合も出ています。2型糖尿病がある人は47.3%、ない人は36.3%が、いったん離れたあとGLP-1に戻っていました。
さきほどの中断率と横に並べると、全体像がくっきりします。
| 区分 | 1年以内にやめた割合 | やめた後にまた始めた割合 |
|---|---|---|
| 2型糖尿病あり | 46.5% | 47.3% |
| 2型糖尿病なし(体重目的) | 64.8% | 36.3% |
やめる人が多いのは、たしかです。でも、そのうちの3人に1人から2人に1人が、また戻ってきている。中断も再開も、どちらも「よくあること」なんだ、とこのデータは語っています。
興味深いのは、糖尿病がある人ほど、やめる割合が低く(46.5%)、戻る割合が高い(47.3%)という並び。検査値という後ろ盾があると、いったん離れても引き返しやすいのでしょう。体重目的の人は離れやすく、戻る割合もやや控えめ(36.3%)。それでも3人に1人以上は帰ってきます。どちらのグループでも、「一度やめたら二度と手をつけない」わけではない。それがはっきり見てとれます。
だから、いま再開を迷っているとしても、それは奇妙な選択でも、負けでもありません。大勢が同じ地点に立って、同じことを考えています。中断と再開のあいだを行き来しながら、自分に合うペースを探す。それは遠回りではなく、慢性の状態と長く付き合ううえでの、ごくふつうの過程です。
もう一度始めるとき、前の量には戻らない
ここは、私がいちばん知りたかった場所です。「余っているペンがあるんだから、前と同じ量から打ち直せばいいのでは?」。結論から言うと、そこは自分で決めていい場所ではありませんでした。
ウゴービの米国FDAの添付文書には、こう書かれています。「2回以上続けて打ち忘れたときは、消化器の副反応リスクを下げるため、より低い用量から用量調整をやり直す」。間が空いたら、前の維持量へいきなり戻すのではなく、低いところから上げ直す。そういう考え方です。
このラベルの一文は、患者本人にではなく、処方する医師に向けて書かれています。
取り違えないでほしいのは、これが「あなたが自分で低い量を選んで打て」という意味ではない、という点です。処方する医師が、どこから再開し、どう上げていくかを組み立てるための指示。余った薬を自己判断で打ち直すのが、いちばん避けたい入り方になります。
なぜ低いところからなのか。しばらく間が空くと、体が薬に慣れていた状態が、いったんリセットされます。そこへ急に高い量を入れると、吐き気などの消化器症状がぶり返しやすい。だから初めて始めたときと同じで、低い用量から少しずつ、が基本になります。どこから再スタートするかは、必ず処方する医師と一緒に決める場所です。
ラベルが線を引いているのは「2回以上、続けて打ち忘れたとき」。1回うっかり抜けたのと、数か月まるごと空いたのとでは、体の慣れ具合がまるで違います。私のように数か月やめていたなら、まず間違いなく「上げ直し」の側。ただ、そこも自己判断はしません。いつから、どれくらい空いたのかを正直に伝えて、あとの組み立ては医師にゆだねる。それがいちばん安全で、結局いちばん気楽な道でした。
2回目は、何が変わる?
ここからは数字ではなく、私が2回目に向けて考えたことです。あくまで個人の感想ですし、効果も副作用の出方も人それぞれ。その前提で読んでください。
1回目と2回目で、いちばん大きく変わるのは「知っている」ことだと思います。吐き気がいつごろ、どんな顔で来るのか。食事をどのくらいに抑えれば楽なのか。最初は完全な手探りでした。2回目は、その地図を手に持って入れます。
1回目のとき、私はいちばんしんどかった時期のメモを、何も残していませんでした。今になって、それが惜しい。どの週に体調が動いたか、どんな食べ方で楽になったか。その手の記録は、自分だけの取扱説明書になります。2回目の診察で、そのまま相談の材料にできたはずでした。もし今まさに1回目のさなかでこれを読んでいるなら、つらい時期こそ、あとで効いてきます。メモを残しておくのをおすすめします。
私が自分のために書きとめていたのは、こんなことです。
- 打った直後の数日は、脂っこいものと量を控えると胃が楽だった。
- 水分とたんぱく質を意識して、食事のリズムをなるべく崩さない。
- 体重の戻りに一喜一憂しない。1回目のゴールを、そのまま2回目のゴールにしない。
お金についても、構え方を変えました。1回目は「短期集中でやりきる」つもりだった。でも、続かなければ戻ると身をもって知った今は、「無理のない予算で、細く長く」のほうが、私の性分には合いそうです。月にいくらまでなら払い続けられるのか。そこを先に決めておくと、途中でまた財布に負けて中断する、という同じ転び方を繰り返しにくくなります。
期待のかけ方も、ずいぶん変わりました。1回目は「一気に落とす」。2回目は「戻りすぎない場所で、無理なく付き合う」に近い。慢性の状態と長く連れ添う、という感覚に、ようやく実感が追いついてきた気がします。体重計の数字を追いかけるより先に、続けられる形を作る。それが2回目の、私のテーマです。
再開の前に、必ず確かめる線
再開の話に入る前に、そもそも「再開してはいけない」線があります。ここは気分や体験談ではなく、はっきりした安全のラインです。だから、段階を分けて置きます。
| レベル | 該当するもの | ラベルでの扱い |
|---|---|---|
| 絶対にダメ(禁忌) | 甲状腺髄様がんの本人・家族歴、多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2) | 米国FDAの枠組み警告。再開そのものを止める |
| 警告・注意 | 急性膵炎 | 疑われたら中止して対応。最初から禁じるものではない |
| よくある同伴症状 | 吐き気・嘔吐・下痢など | 低い用量から上げ直す理由。頻度の数字はここでは出さない |
いちばん上が、禁忌です。甲状腺髄様がん(MTC)の本人歴や家族歴、あるいはMEN2という体質がある人は、始めることも、再開することもできません。これは米国FDAのラベルでもっとも強い枠組み警告にあたり、「量を工夫すればいい」という次元の話ではない。その薬を使うこと自体を止める線です。
一段下がって、急性膵炎の警告。こちらは禁忌とは扱いが違います。最初から一律に禁じるのではなく、「膵炎が疑われたら中止して、適切に対応する」という注意です。強いお腹の痛みが続くようなら、我慢せず受診してください。
いちばん下が、吐き気・嘔吐・下痢といった消化器の症状。これは多くの人が通る同伴症状で、低い用量から上げ直すのは、まさにここを軽くするための工夫です。頻度の数字を貼りつけて怖がらせたくないので、あえて出しません。「使ってはいけない線」ではなく、うまく付き合っていく相手、という位置づけです。
この3つを、同じ引き出しに放り込まないでください。禁忌は、再開そのものを止める線。膵炎は、「疑われたら止める」注意。消化器症状は、多くの人が通り抜けていく道。段階の違うものを一緒くたにすると、必要以上に怖くなったり、逆に肝心なところを見落としたりします。自分がどの線に当たるのか。健診の結果や家族の病歴もふくめて、受診のときに確かめてみてください。
補足をひとつ。この枠組み警告や禁忌は、あくまで米国FDAの基準の話です。日本(PMDA)での承認や使い方が、同じとは限りません。ウゴービは国内でも肥満症の治療薬として承認されていますが、BMIなどの条件がつきます。米国で使える肥満症のブランドが、そっくりそのまま日本で処方できるわけでもありません。
診察室で、何を話す?
最後に、もし再開を相談するなら、という視点で。相談先は、糖尿病があるなら糖尿病内科、体重目的なら肥満外来や自由診療の美容皮膚科あたりが入り口になります。予約のボタンを押すのは、ちょっと勇気がいります。でも、持っていくと話が一気に早くなる材料があります。
- なぜやめたのか(お金・吐き気・目標達成など、正直に)。
- どれくらいの期間、間が空いているのか。
- いま余っている薬があるか。あるなら、種類と量。
これを共有できると、医師は「どの用量から再開して、どう上げるか」を一緒に組み立てやすくなります。お金や入手のしづらさでやめたのなら、それも堂々と議題にしていい。保険が使えるのか、自由診療ならいくらの幅になるのか。そこまで含めて話していい場所です。
言い出しにくいと感じる話ほど、先に出してしまったほうが、結局スムーズでした。たとえば、余った薬を自己判断で打とうか迷っていること。前回やめたとき、副作用がどれだけつらかったか。次はどこまでの体重を目指したいのか。こういう「本音」を差し出すほど、再開の計画は地に足がつきます。診察室は、うまくいっている自分を見せびらかす場ではありません。続けられる形を一緒に探す場だと思うと、肩の荷が少し軽くなります。
私自身は、まだ再開するかを決めきれていません。それでも、こうして数字を並べてみて、少なくとも「私だけが脱落した」という思い込みは、きれいに消えました。半分以上がやめて、そのうちのかなりが、また始めている。あなたがいま立っている場所は、地図のうえの、ちゃんとした一点です。迷っていること自体が、道の途中にいる証拠でもあります。
ここに並べた数字は、公開されている臨床試験や学術論文にもとづくものです。実際に再開するのか、どの用量からにするのかは、あなたの体を診ている医師と、一緒に決めてください。
よくある質問
Q. やめる人は、そんなに多いんですか?
多いです。実際の診療データでは、GLP-1を始めた人の53.6%が1年以内に、72.2%が2年以内にやめていました。半分以上が、1年を待たずに手を止めている計算です。臨床試験の脱落率ではなく、日常のなかで薬を使いはじめた人たちの数字。だから私は、「続かなかったのは私だけ」という思い込みを、ここで手放せました。
Q. やめたら、体重はどれくらい戻りますか?
戻ります。セマグルチド(ウゴービ)のSTEP 1という試験の延長研究では、やめて1年ほど、試験でいう120週目に、減っていた分のおよそ3分の2が戻っていました。体重でいえば11.6ポイントぶん。ただ、スタート時とくらべれば、正味ではまだ5.6%軽いままでした。ゼロに巻き戻るわけではありません。
Q. 前と同じ量から再開していいですか?
そこは、自分で決める場所ではありませんでした。ウゴービの米国の添付文書は、2回以上続けて打ち忘れたときは、低い用量から用量調整をやり直す、としています。ただしこれは、処方する医師に向けて書かれた指示です。中断するのか、いつ、どの量から再開するのか。その用量は、必ず処方医が決めます。余った薬を自己判断で打ち直すのが、いちばん避けたい入り方です。
Q. 一度やめたら、もう戻れないんでしょうか?
そんなことはありません。同じ実データでは、やめた後にまた始めた人が、2型糖尿病のある人で47.3%、ない人で36.3%いました。中断も再開も、どちらも「よくあること」です。
参考文献
本記事の事実に関する記述は、以下の一次資料に照らして確認しています。
- PubMed Central (NIH)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11786232
- PubMed Central (NIH)pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9542252
- PubMed (NIH)pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35441470



